コラムの趣旨
ネットマーケティング検定公式テキストの著者による情報コラムです。
公式テキストでは紹介しきれないインターネットマーケティングに関する最新のトピックスについて、情報や解説などをお届けします。
本試験の事例問題でも取り上げられることの多い、インターネットビジネスの最前線について、マーケティングの視点から掘り下げていきたいと思いますので、ご参考になれば幸いです。
著者プロフィール
藤井 裕之(フジイ ヒロユキ)
ネットマーケティング検定公式テキスト[インターネットマーケティング基礎編]著者。株式会社ワールドエンブレム代表取締役。1998年、早稲田大学卒業後、三菱電機株式会社入社。火力発電所プラントの海外輸出部門に所属。2006年、独立しICTコンサルティング会社(現ワールドエンブレム株式会社)を設立。インターネットマーケティング、システム開発、Web開発、セキュリティ監査、IT統制、ITガバナンス等の事業を展開。会社経営の傍らロースクール夜間部を卒業(法務博士)。2010年、株式会社コンプライアンス・コミュニケーションズ代表取締役に就任。
第32回 キャズム理論とは何か
「キャズム理論」とは、1991年にジェフリー・A・ムーア(Geoffrey A. Moore)が著書『Crossing the Chasm』(日本語訳『キャズム』)で提唱した理論のことで、キャズム(chasm)とは、商品・サービスが市場を独占するために超えなければいけない「溝」のことを指します。
「キャズム理論」にはベースとなる理論があります。それは、1962年にアメリカの社会学者、エベレット・M・ロジャース(Everett M. Rogers)によって著書『Diffusion of Innovations』(日本語訳『イノベーション普及学』)の中で提唱された「イノベーター理論」です。イノベーター理論とは、新しい商品・サービスの市場への普及に関するマーケティング理論です。
イノベーター理論の中では、消費者を5つのカテゴリに分類します。これは、商品・サービスの普及過程とも一致します。
1. イノベーター(比率: 2.5%)
特徴: 新しいアイデアや技術を最初に採用するグループ。リスクを取り、年齢が若く、社会階級が高く、経済的に豊かで、社交的、科学的な情報源に近く、他のイノベーターとも交流する。リスク許容度が高いため、後に普及しないアイデアを採用することもある。
2. アーリーアダプター(比率: 13.5%)
特徴: 採用時期が2番手のグループ。オピニオンリーダーともいわれ、他のカテゴリと比較すると周囲に対する影響度が最も高い。年齢は比較的若く、社会階級は比較的高い。経済的に豊かで、教育水準は高く、社交性も高い。イノベーターよりも取捨選択を賢明に行い、オピニオンリーダーとしての地位を維持する。
3. アーリーマジョリティ(比率: 34%)
特徴: このカテゴリの人は、一定の時間が経ってからアイデアの採用を行う。社会階級は平均的で、アーリーアダプターとの接点も平均的に持つ。
4. レイトマジョリティ(比率: 34%)
特徴: このカテゴリにいる人は、平均的な人が採用した後にアイデアを採用する。イノベーションが半ば普及していても懐疑的に見ている。社会階級は平均未満で、経済的な見通しは低く、社会的な影響力は低い。
5. ラガード(比率: 16%)
最も後期の採用者。他のカテゴリと比較すると社会的な影響力は極めて低い。変化を嫌い、高齢で、伝統を好み、社会階級も低く、身内や友人とのみ交流する傾向にある。
イノベーター理論では、普及率がイノベーターとアーリーアダプターの割合を足した16%に達することで需要が一気に加速するとして、アーリーアダプターへのマーケティングの重要性を説きます。
これに対してキャズム理論では、市場をイノベーターとアーリーアダプターで構成される「初期市場」と、アーリーマジョリティやレイトマジョリティで構成される「メインストリーム市場」に分けます。そして、ハイテク業界において、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に深くて大きな「溝」つまりキャズムがあると指摘します。「初期市場」と「メインストリーム市場」では価値基準が大きく異なるというのがその理由です。「初期市場」のユーザーは新しいものを積極的に採用します。対して「メインストリーム市場」は安定や安心を重視します。つまり、「初期市場」へのマーケティングが順調だとしても、必ずしも「メインストリーム市場」への訴求に繋がらないということです。
キャズム理論では「商品・サービスが市場を独占するにはキャズムを超える」ことが求められますが、これは各商品・サービスにとって大きな試練といえます。
キャズムを超える方法は各商品・サービスの特徴、時代の潮流、タイミングなどによって異なり、「これ」といえるものが確立している訳ではありません。それぞれが現在の状況を見極めて、マーケティング戦略を展開していくことが求められます。
以下に、キャズムを超えた事例を2つご紹介します。
1. メルカリ
メルカリは、テレビCMでキャズムを超えたといわれています。サービスの初期段階ではユーザービリティの改善やサービスの品質改善などを行い、徐々にユーザーを獲得していきました。そして、アプリが200万ダウンロードに達したところでテレビCMを打ち、一気に認知度を高めました。
2. ネスカフェアンバサダー
ネスレ日本は、ネスカフェアンバサダーでキャズムを超えたといわれています。ネスカフェアンバサダーは、ネスレのコーヒーメーカー「バリスタ」を販売する仕組みで、機械が無料で貸し出される「アンバサダー」を募集しました。結果、「アンバサダー」やその周りの人々のクチコミや体験をきっかけに、「バリスタ」はシェアを獲得していきました。
【参考ページ】
キャズム理論
https://marketingis.jp/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%82%BA%E3%83%A0%E7%90%86%E8%AB%96
キャズム理論を徹底解説。市場を独占するために何が必要か?
https://frontier-eyes.online/chasm/
普及学
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%AE%E5%8F%8A%E5%AD%A6
メルカリとラクスルが明かす、スタートアップがキャズムを超える方法
https://forbesjapan.com/articles/detail/23652
キャズム理論とは?|キャズムを超える3つの方法
https://product-senses.mazrica.com/senseslab/knowledge/what-is-chasm-theory
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