「現代のビジネスシーンにおいては、著作権の知識は不可欠である」という命題に異論を唱える方はいないでしょうか。ただし、これまではその意味を「うっかり他人の著作権を侵害しないために著作権の知識を身につけるべき」との、どちらかというと「防御」の観点で説明されてきた印象を受けます。
しかし、著作権は守りのツールではありません。より積極的に攻めのツールとして活用すべきものなのです。魅力ある著作権物(コンテンツ)は時を超え、国境を越えて愛され続けます。そのコンテンツから利益を生み出し、剽窃から守る源こそ著作権なのです。著作権を正しく理解し、適切な契約を関係者と結び、デジタルコンテンツならば適切なDRM(著作権管理技術)を選択して流通させることが重要です。
一方で、著作権は著作物を生み出さない立場であっても重要な知識です。例えば、各種イベントのために外部のデザイナーが創作した「キャラクター」を利用しようとした場合に、利用方法を踏まえた契約を締結することが担当者には求めされていますし、契約の範囲を超えた利用をしていないかを判断できなければなりません。また、昨今盛んになっている「地域のブランド化」を支える「地域コンテンツ」も、その土台は著作権が中心となります。
2016年10月6日、東京で「大学における著作権教育の必修化について考える〜『ネット炎上』・『ネットリテラシー』から見る著作権〜」と題するシンポジウムがサーティファイ著作権検定委員会の主催で開きました。
本シンポジウムは、大学における著作権教育の重要性を、大学生にとって身近なネットでの炎上問題から見ていく構成とし、まず、著作権問題に詳しい弁護士の福井健策先生が「『ネット炎上』からみる著作権問題」と題した特別講演を行い、続いて福井先生と、ジャーナリストの津田大介さんと私の3人によるパネルディスカッションを行いました。
昨年、大きな話題になった東京オリンピックのエンブレム問題を題材にした福井先生の講演は興味深いものでした。当初のエンブレムがベルギーの劇場ロゴと類似しているとの指摘から始まった炎上は、デザイナーの過去作品の類似性が次々に指摘されるに及び、最終的にはエンブレムの展開例の画像に他人の写真を無断使用されていたことが判明し、エンブレムが白紙撤回されたのは記憶に新しいところです。
福井先生によると、著作権侵害があると認定するためには、そもそも問題となったエンブレム図柄が著作物であることを前提として、①似ているとされたベルギーの劇場ロゴが著作物であること、②劇場ロゴとエンブレムが実質的に類似していること(類似性)、③エンブレムのデザイナーが劇場ロゴを見ていたこと(依拠性)の3点の法的評価が必要なのに、それとは別の視点や論点で批判され、炎上を招いたという指摘です。
法的評価と社会の反応にずれが生じる理由として、次の4点を指摘しています。①そもそも著作権侵害は表現結果で評価され、アイデアなど表現に達しない領域は論評などに委ねられる。②似ていると判断する知識や経験が人によって異なる。③著作権侵害かどうかの議論を離れ過去の経緯や人物評価に論点が拡散した。④匿名のネット上で劇場化されネタ化され極論化が進んだ。
こうした状況が一般化してしまうと、ちょっとでも似ているだけで炎上のリスクがあると思い、表現が萎縮してしまうのではないかと先生は危惧されます。法的に問題がない表現でも、安全志向で無難なものになってしまう。一般の人の感覚が、表現を萎縮させてしまうというわけです。
私は、あのエンブレムがベルギーの劇場ロゴデザインと似ているとは思わなかったし、法的な問題はないように感じていました。最近、かのデザイナーの葬儀を模したパフォーマンスが美術大学の学園祭で行われたそうです。これが(ソースありか?)、「デザイン」「表現」「創作物」等へのリスペクトが失われたことに対する怒りのアピールだとしてもやり過ぎだと感じました。そもそもデザイナーの行為が著作権侵害だというためには先生が挙げた3つの条件が必要で、仮に知っていたならば、このようなパフォーマンスに至らずカレの行為についてもっと冷静な議論ができたのではないだろうか。大学でこのような出来事が行われたことからすると、大学での著作権教育は重要だといわざるをえません。
パネルディスカッションでは、津田さんから、日々、各種メディアに著作物を生み出し発信することを生業にしているジャーナリストの中にも著作権を理解していない人が少なからずいるという指摘がありました。私は、山口大学で著作権教育の実践に携わり、国士舘大学等でも著作権教育にかかわる支援をしていますが、ビジネス著作権検定を利用して効果を上げていることを説明しました。ジャーナリストに限らず、著作権侵害か否かを法的に評価できる観点を、全ての人が持つべきだと考えています。正確な著作権知識を持つことの大切さについて、3人の意見は一致し、今後も大学と協力して著作権教育を推進していこうと確認いたしました。
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