「現代のビジネスシーンにおいては、著作権の知識は不可欠である」という命題に異論を唱える方はいないでしょうか。ただし、これまではその意味を「うっかり他人の著作権を侵害しないために著作権の知識を身につけるべき」との、どちらかというと「防御」の観点で説明されてきた印象を受けます。
しかし、著作権は守りのツールではありません。より積極的に攻めのツールとして活用すべきものなのです。魅力ある著作権物（コンテンツ）は時を超え、国境を越えて愛され続けます。そのコンテンツから利益を生み出し、剽窃から守る源こそ著作権なのです。著作権を正しく理解し、適切な契約を関係者と結び、デジタルコンテンツならば適切なDRM（著作権管理技術）を選択して流通させることが重要です。
一方で、著作権は著作物を生み出さない立場であっても重要な知識です。例えば、各種イベントのために外部のデザイナーが創作した「キャラクター」を利用しようとした場合に、利用方法を踏まえた契約を締結することが担当者には求めされていますし、契約の範囲を超えた利用をしていないかを判断できなければなりません。また、昨今盛んになっている「地域のブランド化」を支える「地域コンテンツ」も、その土台は著作権が中心となります。

「ONE PIECE（ワンピース）」と言えば、「週刊少年ジャンプ」に連載されている人気の漫画作品です。アニメにもなりテレビ放送もされ、多くの若者から支持されています。この「ONE PIECE」の誌面を、掲載誌の発売前にデジタル化してWebサイトにアップロードしていたとして、中国人男性3名ほかが逮捕されました。

この事件は、IT専門誌だけでなく、朝日、毎日、読売などの一般紙やスポーツ新聞などでも大きく報道され耳目を集めました。その理由は、いわゆる電子出版の出版権侵害として逮捕された初めての事件だったからです。

これまで、紙の出版物について著作権侵害行為があった場合、漫画家など著作者本人に加えて、出版物について著作者から出版権の設定を受けた場合には、出版社も対策を取ることができました。しかし、電子出版については出版権設定契約の対象となっていませんでした。それが、今年1月から施行された改正著作権法では電子出版についても出版権の対象となり、法務部などを備え組織力のある出版社も侵害対策を行えるようになったのです(著作権80条1項)。

ビジネス著作権検定において、「出版権」は「上級」のみで扱うテーマで、やや難しいかも知れません。でも、著作権法は毎年のように改正されています。改正されるポイントは、文化庁のWebサイトに、条文とともに詳しい解説が掲載されます。法改正前の議論の過程も公開されています。

著作権法について勉強する上で、テキストに従って理解していくのが王道だと思いますが、同時に、なぜ法改正が行われたのかという背景を知ると、より著作権法への理解が深まるのではないでしょうか。また、今回のような事件報道を見て、その根拠となった条文を確認する方法も、実践的で記憶に残る勉強方法だと思います。