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委員長メッセージ・コラム

委員長プロフィール 久保田 裕

  • 一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 専務理事・事務局長
  • 山口大学客員教授
  • 文化審議会 著作権分科会 臨時委員
  • 文化審議会 著作権分科会 法制・基本問題小委員会 専門委員
  • 文化審議会 著作権分科会 国際小委員会 専門委員
  • 公益社団法人著作権情報センター 理事
  • 特定非営利活動法人 全国視覚障害者情報提供施設協会 理事
  • 特定非営利活動法人 ブロードバンドスクール協会 情報モラル担当理事

「現代のビジネスシーンにおいては、著作権の知識は不可欠である」という命題に異論を唱える方はいないでしょうか。ただし、これまではその意味を「うっかり他人の著作権を侵害しないために著作権の知識を身につけるべき」との、どちらかというと「防御」の観点で説明されてきた印象を受けます。
しかし、著作権は守りのツールではありません。より積極的に攻めのツールとして活用すべきものなのです。魅力ある著作権物(コンテンツ)は時を超え、国境を越えて愛され続けます。そのコンテンツから利益を生み出し、剽窃から守る源こそ著作権なのです。著作権を正しく理解し、適切な契約を関係者と結び、デジタルコンテンツならば適切なDRM(著作権管理技術)を選択して流通させることが重要です。
一方で、著作権は著作物を生み出さない立場であっても重要な知識です。例えば、各種イベントのために外部のデザイナーが創作した「キャラクター」を利用しようとした場合に、利用方法を踏まえた契約を締結することが担当者には求めされていますし、契約の範囲を超えた利用をしていないかを判断できなければなりません。また、昨今盛んになっている「地域のブランド化」を支える「地域コンテンツ」も、その土台は著作権が中心となります。

■ サーティファイ委員長コラム Vol.34

先日、教育関係者が集まるセミナーNew Education Expo2015(※1 )に行ってきました。いくつか発表を聞く中で、思わぬところで教職員が著作権法違反をしてしまう事例が報告されていましたのでご紹介します。

報告者はICT活用教育の総合サイトの運営者でした。その方によると、先生が、許諾を得ずに他人の著作物を転載して作成した授業のための教材を、紙で複製・配布するだけでなく、教育委員会のサーバーに電子ファイルを複製し、施設外から他の先生がアクセスできるようにしておいた事例があるとのことです。

著作権法を勉強している方ならご存じの通り、著作権法35条1項では授業に伴う複製について著作権が制限されており、先生や生徒が授業の過程において利用するものについては、著作権者の許諾なく複製し、複製物を配布することができます。しかし、教材のファイルをサーバーに設置し、外部からアクセスさせる状態に置く行為は、この規定の対象となりませんので、サーバーへの著作物ファイルの複製と公衆送信について著作権者の許諾が別途必要となります。 上記の例の場合、授業のために作成した教材に他人の著作物を転載し、紙媒体等で複製することは適法ですが、サーバーに著作物ファイルを複製して他人にアクセスさせる行為は著作権侵害となってしまいます。

では、上記の例について適法に行うためにはどうしたらよいでしょうか。もちろん著作権者から許諾が得ることが原則ではありますが、著作物の「引用」(32条)に該当するのであれば、著作権者の許諾を得なくても利用することができます。「引用」とは他人の著作物を自分の著作物に引いてくることを指しますが、著作権法で著作権者の許諾なく行うことができる引用に該当するためには、以下の要件が必要であるとされています。
①引用される著作物が公表されていること
②公正な慣行に合致すること
③引用部分と自分の著作物とが明瞭に区別されていること
④報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること
⑤自分の著作物と引用された著作物との主従関係において、前者が主で後者が従であること
これらの条件を満たせば、引用して利用することができると規定されているとおり、複製のみならず、公衆送信や上映も著作権者の許諾なく行うことができるのです。

上記報告によると、こうした侵害事例が起こるのは、著作権法を正しく理解していない教員が多いというだけでなく、教育現場のデジタルネットワーク化が進む中、デジタル教材が容易にコピーやアップロードができることも理由としてあげられるようです。思わずやってしまうというケースが多いようですが、こうした状況に対して、先生たちも著作権に関心を向け始めているとのことです。

学校では、他人の著作物や先生が作成した著作物を利用して授業を行い、同時に児童・生徒が著作物を生み出す場です。そのような場であるからこそ、先生方には著作権を正しく理解し、また、指導していただく必要があります。先生を目指す人や、現在、先生をしている人にも、ビジネス著作権検定合格を一つの目標として、著作権の勉強をすすめていただきたいと思います。

※1 New Education Expo2015公式サイト http://edu-expo.org/

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